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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

などと云って妙な眼まぜをした。

「粗忽でひっ掻きまわすとは妙案です、いまにごそっと」こう云うときは両手でなにかを掬うような身振りをする、「――ごそっと根こそぎ網にひっかかるでしょう、いや知ってます、そしてわれわれは早くその日の来るのを待っていますよ」

泰三はいつもなにも云わずに、意味ありげに微笑したり、頷いてみせたりした。こちらにはかれらの云うことがてんでわからない、そしてわからないという事実を説明しても、かれらはまるっきり承知しない、「隠してもだめです、私共はちゃんと知ってますよ」と云うのである。しようがないからそれに応じて、意を諒したようなまねをしているのであった。

山治家においても城中にあっても、物をひっくり返したり蹴とばしたり、踏み毀したり破いたりする点は連日連刻のことであった。いつか、――それは年来のことだったが、山治家で満信城代を茶に招待したことがある。それは右衛門がなんとかいう名物の茶器を手に入れたので、それを自慢したかったのらしい、ところが客が来て、さて茶席へ案内してみると、その自慢の名物がなくて、つまらないような通俗な器物が揃えてあった。