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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
勘定奉行はこう云ったので、泰三としては少なからず張切った。しかし二十三年も昔の「御領内料材払下仕切帳」などというものを独りぱちぱち算盤ではじいていたりすると、なんとなくばかにされているような気持になることもあった。そんなときは気分転換のため、どこか他の役所へでかけて、
――なにかいそぎの事務はないかね。
――いそがしかったら手伝おうかね。
などと云って時間つぶしをした。これをつづめていえば、「検計係」なるものは泰三を拘束するためであって、古帳簿の検算などは単にみせかけに過ぎない、ということがおわかりであろうと思う。……だが俗に人を呪わば穴二つということも、この際ちょっと記憶にとどめておいて頂きたいのである。
さて泰助と千賀との結婚式の当日、泰三はかなり多数の帳簿を与えられたうえ、「今夜は城に泊って、出来るだけ多く、片づけられるだけ多く片づけて貰いたい」
こう依嘱されたのである。これは山治右衛門の計略であり、それによって勘定奉行が動いたわけであるが、もちろん泰三は知らない。彼としては私情のために公務を怠るようなことはできないだろう。云われるとおり城中にこもって熱心にその事務に精励した。