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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
「いや待って下さい」泰三はにこにこと城代の言葉を遮った、「――御城代の誠忠はわかります、金の有ることが知れると、人間はとかくばかなまねをするものです、だから今日まで巧みに隠しておられたのでしょうが」
「ば、ばかな、ばかなことを申すな」
「いや証拠があるんです」彼は自若として答えた、「――御存じのように私は古帳簿の検算を命ぜられました、それでわかったのですが、実にその記帳の巧妙さというものは……例えばこれをごらん下さい」
泰三は例の六尺四方ほどの、系図書きのようなものを示した。
「これは今から二十年まえの九月の仕切ですが、この全収納額の内、二千八百三十二両余というものが繰越になっている、いいですか、それがですね、年度仕切の三月になると、きれいに帳簿から消えているんです、むろんその内訳はちゃんと出来ています。何某奉行所の緊急予算として何百何十両、何某奉行所へ臨時予算として何百何十両、何某奉行所へはこれこれ、……そしてその各役所の帳簿をみるとですね、その緊急予算や臨時予算の金は、その役所では決して使われないのです、こちらの金はあちらへ、あちらの金はそちらへというぐあいに、むやみとぐるぐる廻し合って次年度の九月の仕切になるとまったく収支面から消えてしまうのです、これは一見不正と思えるでしょう、私も初めは不正であると思い