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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

ような眼と、左の眼の下にある泣き黒子がなんともいえず可愛らしいんだ、けれども相手は藩の師範の娘だし、おれはこのとおりの人間だ、逆立ちをしたって及ぶ恋じゃあない、それはよくわかっている、だからこそ今日までおまえにも打明けずにいたんだが」「隠すより顕わるるだな」「そうだ、銀之丞のやついつか感づいていたのだろう、いきなり満座のなかでばらしゃあがった」伝七郎は新しく燗のついた徳利を取って、三杯ばかりたて続けに呷った。「だがあんな法はないんだ、おれが三枝という娘を想っているのはまったくきれいな気持だ、雪のようにきれいな気持なんだ、この恋をかなえようとか、自分の女房にしようなんて気持はこれっぱかりもない、ただあの娘が仕合せであるように、あの眼がいつまでも笑っていられるように、心からそう祈っているだけなんだ、そして、……こいつはそう楽なことじゃあない、しんそこから好きになり、身も世もなく心を惹かれて、寝る間も忘れないほど焦れていながら、とても自分の手には届かないと諦めて、蔭でそっと幸福を祈っているなんて、男としてこいつはずいぶん辛いことなんだ、人の大勢いるまえでからかい面で口にする