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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

ような、そんな軽はずみなものじゃあないんだ」こう云っているうちに、伝七郎の眼からすばらしく大粒の涙がぽろぽろとこぼれ、その一滴がちょうど口のところへ持って来た盃の中へ落込んだ。人間の習慣は面白いもので、伝七郎はそれが豆粒ででもあるかのように、慌てて摘み取ろうとしたのは奇観であった。「あいつはそういう人間だ」と忠太が、くいしばった歯の間から、呻くように云った、「あいつは世の中に、怖いものはねえと思ってる、もう四年ばかりまえの事だ、久しぶりで大手先で行会ったから声をかけたんだ、こっちが少し酔っていたせいもある、それでなくってあんな野郎に口を利くんじゃあねえ、ほろ酔いでいい心持だったもんだからひょいと声をかけた、するとあいつがなんと云ったと思う伝さん、こうだ、……こういう眼で見やあがって、『下郎さがれ』とぬかしゃあがった、下郎さがれ、昔はいっしょに草っ原で蜻蛉を追いまわした仲じゃあねえか、幾ら出世をしたからって、なんぼ武士と町人だからって、幼な友達を下郎と云うことはねえだろう」「そうか、そんなことを云ったか」「おらあ知ってる