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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

忠太郎は横っとびに表へ馳けだしていった。

酒が来、岡持が来て、行灯に火を入れるとそれで席は出来た。なにしろゆうべの今日だし、伝七郎の方はもう入っているので、盃がまわるとすぐ二人とも発してきた。「おまえなあ忠公、おまえゆうべ村松の悪口を云ったが、あれは少し違うぞ」「どうして」「おれは今朝も寝床の中でそう云ったんだ、違うぞって、あんなことは友達の間で云うのじゃあない、あれはよそうぜ」「だっておいらあ知ってるんだ、昔からそうだったがあいつにはまっとうでねえところがある、油断のならねえ、人の小股を掬うようなところがよ」「おまえは世間の評判につられているんだ、出る杭は打たれるという、村松は学問も武芸も家中で何人と指に折られる秀才だ、現に足軽組頭から小姓組の筆頭書役に出世しているが、なまはんかなことでこんな出世ができる筈はない、世間ではそれを嫉んで色いろ蔭口をきくんだ、けれど幾ら蔭口をきいたって村松の出世をどうすることもできやしない、みんな無能な奴等の嫉みなんだ、本当だぞ忠公」「そうかも知れねえ、だがおらあ嫌えだよ、あいつは偉えかも知れねえし、出世もするだろうがおらあ嫌えだ、あいつはまっとうじゃあねえ、友達の情というものさえねえもの、おいらのことを下郎と」