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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

「おれは師範代としてあの家とは昵懇だ、あの人とも時には話すことがある、だから友達として助言をする気になったのさ、あとはおまえの決心ひとつだ、中老職の御三男しっかり頼むぞ」

あらおやすくないと、妓たちのわっという騒ぎにとり巻かれた伝七郎は、体じゅうが火のようになり心臓がひき裂けそうに高鳴るので、むやみに盃を呷りながら深いもの思いに耽った。銀之丞と別れて「小花」を出たのはもう昏れ方であった、家へ帰ろうとして忠太郎のことを思いだし、心も空に鍛冶屋町へまわった。忠太郎は夕飯の支度で焜炉に火を起しているところだった。「そんなことは止しにしよう」伝七郎は例の紙包を差出しながら云った。「今日はこれだけあるんだ、なんでもいいからおまえの見つくろいで早いところ酒と肴を頼む、呑んで相談したいことがあるんだ」「たいへんな景気じゃあないか、いいのかい」「いいとも、と云ったってそれっきりのもんだ、足りないところはがまんしてくれ」「冗談じゃあねえ、伝さんとおいらなら三日ずぶろくになれらあ、じゃあひとっ走りいって来るぜ」「おれが燗の湯を沸かして置くからな」