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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

二日めになるとそろそろ不安になり、三日めには昂然とあがっていた額が下りはじめた。稽古は隔日なので、あれから道場へ二回いったが、師範はなにも云わないし、そんなことが有ったかというけぶりも見せない、「男は度胸」もくそもない、伝七郎は生得の弱気にとり憑かれて、今はもうなにもかも無い昔にかえりたくなった。すると六日めの夜のことである、彼の居間へ次兄の門之助が足音あらく入って来て、「父上がお呼びだ」と呶鳴るように云った。「首の根をよく洗ってゆけ、殊によるとお手打ちだからな、可哀そうな奴だ」「なにがお手打ちですか」「文句を云わずにいってみろ」ふんと、いかにも侮蔑に耐えぬように鼻で笑った。……また小言か、伝七郎はうんざりしながら、それでも袴の紐を締め直して父の部屋へいった。

そこには父の脇に長兄の平助もいた。二人のようすは恐ろしく厳粛で、伝七郎が挨拶をし座に就くまでそれこそ眼も動かさず、息もしないようにみえた。「この馬鹿者」いきなり父の口を衝いて出たのがその一喝だった。そして縮みあがる伝七郎の前へ、一通の手紙を投げだしながら、「それを読んでみろ」