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こいのでんしちろう
恋の伝七郎
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页
と云った。彼はそれを取上げて、恐る恐る読んでみた、――なんと、それは紛れもなく沖田源左衛門からのもので、申込んだ縁談の断り状であった。
……御令息より拙者むすめ御所望のお話し忝けなく面目至極には御座候え共、むすめ儀はかねて御家中村松銀之丞殿と縁組み仕るべき約束にて、にわかに御意には添い兼ね申し候。さりながら折角の思召しではあり、拙者こと剣道師範を承わる身に候えば、村松殿と御令息と試合の上、いずれとも勝ちたる方と縁組を致すが至当なりと思案あい定め申し候。このむね村松殿に通じ候ところ異存これ無く、期日も来る九月二日と決定致し申し候、右の次第に御座候えば、…………
そこまで読むのが精いっぱいだった、全身ぶるぶる震いだしながら、思わずその手紙を鷲掴みにして、「ひどい」と呟やく頭上へ、まるで石でも抛うつように罵言が飛んできた。それは長兄平助の声である、「武士たる者が他家へ押しかけて、その家の娘を嫁にくれなどと自分の口から申す、さような不面目なことは永井家の人間としてゆるすわけにはゆかぬ、貴様にもそれだけの覚悟はあるだろう、しかしそれは後のことだ、当面の問題は村松との試合だ、その手紙に書いてある