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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

んだ、驚かしじゃない、あいつらは家名とか面目なんぞのためなら、本当に人間の二人や三人平気で腹を切らせ兼ねないんだ、おれが村松に勝てないことがわかりきっているとすれば、詰りもう腹を切るというのは定りきったことじゃないか」伝七郎は話すだけ話してしまうと、もう身も心もくたくたといった感じで、例の背中を蚤にでもさされたような渋面を作りながら、げっそりと、うなだれ込んでしまった。あらゆるものが死に絶えたように、森閑と寝しずまった長屋のどこかで、心ぼそくも生き残ったこおろぎが一匹、ころころとはかなげに咽び鳴くのが聞える。忠太はありもしない智恵を絞って、絶体絶命の友になにか打開の途はないものかと思案を凝らしていたが、「考える」という習慣のない人間だから妙案を思いつくまえに眠くなってきた、そしてこくりと頭をのめらせて、「しまった」と思ったとたんに、すばらしい(忠太としては)計略を考えだした。「伝さん」と、彼はむきだしの膝小僧を叩いて、たいそう厳粛な調子できりだした、「おめえ、こうなったら肚を据えようじゃあねえか、どうだ」「えっ、そ、それじゃあやっぱり腹を切る