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こいのでんしちろう
恋の伝七郎
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页
それにしても、とにかく彼等がその計画をすすめたことは事実だった、福山十万石といっても、三都の繁昌とは違って田舎の城下町だから、こういうときには話は早い、伝七郎は姿をくらましている身分なので、長屋のひと間に閉じこもっていたが、忠太は三日ばかりとび廻って、沖田の方をすっかり調べて来た。それによると、八月二十八日に、藩の重役で安倍内記という者がいる、その邸で姉娘が近く嫁入りをするため、親しい娘達を集めて別れの宴席を設けることになった、それへ沖田の三枝も招かれてゆくということがわかったのである、「伝さんこいつだ」と忠太郎はすっかりいきごんで云った、「なにしろ集るのが暮六つというんだから、早くったって帰りは八時になる、御蔵下の安倍さんから柳小路までの間には、昌林寺の籔小路があるからもってこいだ、やるならこの他に折はねえぜ」「いいだろう、その日ときめよう」「それからこいつは伝さんにゃあどっちでもいい事だろうが」と云って、永井の家の様子を話しだした。伝七郎の失踪は父や兄達にとってたいへんな打撃だったのだろう、あの翌朝から密かに手分けをして、八方へ追手を出すとともに、城下町をずいぶん捜し廻ったらしい、だがこの鍛冶屋町の裏とは気づく