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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

筈もなく、大体のところ諦めた模様だということだった。「そうだろうな」伝七郎はにやっとした、「おれがここでててんをきめたとなれば面目まる潰れだからな」「なんでえててんというのは」「おまえが教えたんじゃあないか、地面を売るというのよ」「それあどろんをきめるだぜ、それから地面じゃあねえ、土地を売るだ」「ああどろんか、なんでも太鼓を叩くような音だと思ったっけ」「大笑いだ」二人は声を忍ばせて笑った。

逃げ口はこの道かこの道、その先はこうとあらまし手順がついた、そして彼等は酒を飲みだした。なにしろ二人ともばか正直の小心者だから、こんなだいそれた企みを抱えて素面でいられるわけがない、そこで酔っては良心を昏ましながら、なるべく景気のいいことばかり考えたり話したり、ひたすら、その日の来るのを待つ、かくていよいよ八月二十八日の宵となった。

御蔵下という所にある安倍内記の邸から、沖田三枝が出て来たのは今の時間にして九時ちょっと過ぎた頃であった、供は老人の下僕ひとりである、定紋を書いた提灯で道を照しながら、そこから西へ辻を曲り、大きな屋敷ばかり並んでいる