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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

と相手は驚いて提灯をあげる、その顔を見て伝七郎はあっと叫んだ、「村松……おまえだったのか」「なんだ伝七じゃあないか」「いいところへ来てくれた、貴公は沖田の三枝どのを捜しているんだろう」「そうだ、知ってるのか」「知ってるとも、恥かしいが三枝どのを掠ったのはこの伝七郎だ、精しい話をする暇はないがあの人は無事であそこにいる、これから家まで送ってゆこうとしていたところだ、貴公に渡すから伴れていってくれ」「そんな高い声をだす奴があるか」銀之丞はそう云って一歩こちらへ寄った、「貴様がせっかく掠って来た女だ、いいから何処へでもこのまま伴れて逃げろ」「ええ、な、なんだって」「この道を梁瀬川へ出れば渡しがある、その舟で海へ下れば間違いなく、国越えができるだろう、そっちへは追手の廻らないようにしてやるから早くゆけ」「待ってくれ、まあ待ってくれ、おれはもうこれ以上あの人になんの望みもないんだ、おれは後悔しているんだ、貴公はあの人の体になにか瑕でもついたと思うかも知れないが、決して断じてそんなことはない、神に誓って云うが、あの人はまったく清浄無垢だ」