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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

と、おろおろ声で云った、「もう云いたいことはすっかり申上げたし、なにも心のこりはありません、お宅まで送ってまいります、お立ち下さい」こう云って立たせようとした。そのときである、表の方から忠太郎が、「大変だ伝さん、こっちへ追手がやって来るぜ」と叫びながらとび込んで来た。「なに追手だって」「向うに梁瀬川へおちる小川がある、むかしいっしょに鮒や蟹を捕りにいったことがあった、あれを思いだしたので、少し遠いが走っていって水を汲んだ、二口みくち飲んで、伝さんの分を汲んで戻ろうとすると、川沿の道を提灯が十二三もやって来るんだ、いけねえと思って草籔の中へとび込み、這うようにして帰って来たんだが、追手はあの土橋の所で四方に分れた、そのうちの提灯が一つ、おれの後からいまこっちへやって来る」「そうか、それあ却って世話なしだった」「ど、どうするんだ伝さん」「見ていればわかる、話はあとだ、おまえはお嬢さんを伴れて後から来てくれ」そう云うなり伝七郎はまことに決然たる足どりで外へ出ていった。

彼が道へ出るのと殆んど同時に、提灯を持った一人の侍が北からやって来て、危くこちらと突当りそうになった、「誰だ」