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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

と凛とした声で云った、「そして村松さまは、もうお死になすったのも同様でございます」そう云うのを聞いたのだろう、伝七郎はかなしばりが解けでもしたように、そこへくたくたと尻餅をつき、「斬った、銀之丞を斬った」と情けない声をあげて笑いだした、要するに彼は二ど笑ったわけである、だが二どめの情けない笑い声のなかに、どんなに豊かな力づよい自覚があったかということは、当人以外には知ることができないに違いない。

「おれは知ったよ」と、伝七郎は云う。暗がりの道を梁瀬川の渡し場の方へ歩きながら、忠太郎と三枝に向って彼は能弁に語る、「世の中で立ってゆくには銀之丞のようでなくてはいけない、相貌も秀で、学問にも武芸にもぬきんでていなくては駄目だ、おれのように愚鈍な生れつきの者は、隅にひっこんで首を縮めているより仕方がない、そう思っていた。だがそれは間違いだった、伝七郎は伝七郎でりっぱなものなんだ、忠太は忠太でそのままりっぱなんだ、いけないのは自分から駄目だと思うことなんだ、わかるか忠公」「いち言もねえ、おらあ世の中がまるで変ったようにみえらあ」「銀之丞はあれでおしまいだ、三枝どのの仰しゃるとおり、銀之丞はもう福山藩では生きてはゆかれない、なぜだ、……それに反しておれはこれからだ、おれの生涯はこれから始まる