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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

光秀の兵理軍学の蘊奥も、ここに至ってはすでに施し尽きていた。しかも彼は、今日明日のうちにも、敵城を揉みつぶさねばと焦心っていた。

(――さだめし歯がゆき者と、信長公も思し召しつらん。丹羽、羽柴の友軍も、あれ見よ光秀が手を焼いておるわ、と密かに笑いてやあらん)

などと味方の上下の思わくまでを、こんな中にもひとり苦慮する光秀であった。

さらに、ここは自分の働き場所――丹波の役であるという責任感もある。惟任日向守たるの誇りもある。断じて、悠々と、ここに膠着を続けてはいられない。

「なに。長陣で囲んでいるしかないと、いやいや、光秀には疾くより考えておることもある。無為無策の長陣をきめこんで、友軍のめざましい戦功をよそに眺めてなどおられようか。……作左、作左」

と、一方にいる部将たちの一名を呼び、

「いつぞやそちが本陣へ伴れて参った大善院の和尚をもう一度呼んで来い。夜に入るもかまわぬ、すぐにだぞ」

と、いいつけた。

旗本、進士作左衛門は、命をうけると、すぐ駒をとばして、多紀郡の大善院へ駈けて行った。

攻城数月、すでに季節は夏に入っていた。陥ちない城を目のまえに、光秀は、毒虫や蚊を追うべく篝を焚かせて、その夕迫る煙のなかを黙々歩み巡っていた。