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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
「さあ、参ろう。お待たせ致した」
おや? と思って振向くと、秀吉はすっかり衣服を着かえている。しかも礼服であるのみならず、何を問う間もなく、もう玄関のほうへ向って先に歩き出しているのだ。
使者の馬も、彼の馬も、もうそこに廻されてある。小姓たちが、わらわらと、先を争って供につく。
「――何処へ?」
と、訊く必要もなさそうだ。礼服を着かえて出て来たからにはお城へ行くつもりであろう。しかし羽柴筑前守の登城は明朝ということになっているから、城門でもまごつくだろうし、何よりは、信長も予期していないことだ。どういうものだろう、その辺は?
堀、菅屋のふたりは、すこし案じ顔して従いて行った。秀吉は、顧みて、
「両所、御案内をたのむ。――君公の方から先にお使いを賜わりながら、明朝までとは申せ、御挨拶にも及ばず、城下におるのは、まことに恐れ多い。――今日は、お目通りはさし控え、ただお広間まで参って、陰ながらお礼だけを申し述べて参りとう存ずる。いざ、お先へ、お先へ」
と、道をひらいた。
そこはかとなく、仄かな燭は燈されはじめている。女房衆の声かと思う。遠く近く々としたさざめきが洩れて来る。