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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

(道中いかなる変があろうも知れぬ――)

と、秀吉の帰国を後からふと案じ出して、海上を行けと、にわかに、船手方の者へ、その用意を早打でいいつけたものとみえる。

「かくまでに、この秀吉の身を、大事と思し召し下さるのか」

と、彼は心のうちで、安土の方を振り顧らずにはいられなかった。

何条、その知己に反くべき――である。秀吉は、九鬼家の案内に従って、その夕方、大坂の川口から船に乗った。

船は、かつて、この沖で、毛利家の輸送船団を撃砕した戦歴をもっている軍船の一つである。

艤装いかめしく、大鉄砲の銃座もすえてあるし、長柄や、鈎槍なども、舷に立てならべてあった。

けれど、船楼の一間は、あたかも本丸住居の一部屋を、そのまま移して来たように、衣桁もあれば金屏風もあり、蒔絵の文棚、小鼓、香炉、火鉢、褥、膳具酒器など、ないものはなかった。

「幸いに、海上は穏やかです、どうか夜もすがらでも、お過しください。飾磨の浦に着くまでは」

と、九鬼家の家臣という三名のさむらいが、船中料理の粋をこらして、やがてそれへ伽に出て来た。

「船旅は楽でいい」

と秀吉は、近侍たちと打ちくつろいでいたところだった。