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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

何せい、生れながらの素質はあっても、その未完成なうちにこの時運に会ってしまったのである。

ここ数日、彼のいる本丸は、広い評定の間とそのほかの袖部屋まで、すべての襖をとり外し、さながら連日連夜の大地震でも避難しているように、一門一族、家老その他、みな起居を共にし、雑居しているのだった。

もちろん、庭さきにも、幕を張り、楯をならべ、兵は高張を掲げて、夜も寝ずに警備している。

そして、刻々の状況は、大手から中門を通り、直接庭づたいに、ここに報じられ、勝頼は、縁越しに早打の報せまで、自身聞いていた。

去年、普請したばかりの、木の香の新しさも、金銀のちりばめも、調度の美も、何もかも、今はすべてが、邪魔物、足手まといの物としか、誰の目にも映らなかった。

「お館さまには、いずこにお在せられましょうか」

かいがいしく、裳をくくしあげた女房が、侍女ひとりをつれて、御台所のお使いと称し、その混雑な庭面から、ほの暗い広間の中の人群れを見わたしていた。

それほどそこには、老若の武将がいっぱいにいて、何やら騒然と、思い思いな声をもらしていた。

彼女は御台所付きの女房で茅村の局という。