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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

乗馬は、郎党に曳かせ、至極浮かないすがたで、歩いて来る後から、従者たちも、同様に、どこか冴えない空気をながして、黙々と、供して来るのだった。

「これまで、お迎えに出ておりました。おつかれにございましょう」

利三が、前に屈むと、光秀は、なにか驚いたように、面を向けて、

「利三か。……いや心ないことをした。儂が帰りの遅いのを案じていてくれたの。ゆるせ、ゆるせ。ちときょうは御酒をいただき過したゆえ、わざと酔を醒まそうものと、湖畔を徒歩うて戻って来たのじゃ。顔いろが青いとて案じるなよ。気分もだいぶ快うなったし……」

何か御不快なことにお遭いだったとみえる。多年側近く仕えている主人である。内蔵助利三が見のがすはずはない。

けれど、敢えて、深くは問わなかった。ただ、いかにその気色を慰めようかと、この老職は、その世に馴れ人に練られた心をくだいて、宿舎に入ると、主君光秀の身のまわりの世話までやいていた。

「いかがですか。あちらのお座所で、まず茶なと一ぷくさしあげましょうか、それとも、お召かえのついでに、すぐお風呂をお浴みあそばしますか」

戦場に立てば、驍名敵を畏怖せしめるに足る猛将利三が、小姓の手もからず、光秀の小袖から袴をはく手助けまでしているのだった。