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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

「お使い。通んなさいッ」

いかつい声と一緒に、眼のまえの柵門が大きく口を開けた。暗闇の中にひしめく兵の影は、一団百人以上もいるかと見えた。その波の揺れるたびに、閃々と槍の穂が瞳を刺す。

「大儀でござった」

と挨拶して、官兵衛は、

「それがしは、跛行でござれば、輿のまま罷り通る。無礼をゆるされよ」

と、断って、ただひとり供として連れて来た子息の松千代長政(松寿丸)のすがたを後ろにふり向き、

「松千代。先に立て」

と、命じた。

「はいッ」

と、父の輿の前へまわって、松千代は、敵兵の槍の中をまっ直ぐに歩いて行った――。輿は、四人の士卒に担われて、その後から柵門へ入ってゆく。

十三歳の一少年と、跛行の武者とが、悪びれた様子もなく、使いとして、自分たちの陣営に入って来たのを見ると、殺気立っていた餓狼のような城兵も、敵ながらこの父子を憎む気もちは起らなかった。――自分たちの臥薪嘗胆している戦いの苦しみを、ひとしく敵もしているものと、おたがい、もののふ同士の立場を思いやって、むしろ一種の同情すら抱いた。

柵を通り、城門をくぐり、やがて中門へかかると、そこに家老の後藤将監と城士の精鋭級が、厳然と、白眼を揃えて、来る者を待っていた。