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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
訊くのである。村重の声だ。――官兵衛はひとみを澄ましていたが、やがて答えた声はすこしも平静を欠いていなかった。
「いや、まだ酒のぬくみがある。――だが夜半ともなれば堪るまい。もし黒田官兵衛が、凍え死にしたと聞えたら、羽柴どのは、播磨から一夜にこれへ来て、恐らくは貴公の首を、獄門の霜に会わせずにはおくまい。……摂津、おぬしも、ろくな智嚢のない男だのう。おれを留めて何の役に立てるつもりか」
「…………」
村重はことばもない。自分に愧じることを彼も知っている。しかし、やがてその正直な自己を圧しころしてせせら笑った。
「官兵衛、愚痴はよせ。おれを智嚢なしというが、その智慧なしの計に落ちた貴さまは何か。――それでも中国の張良といえるか」
「悪態は無用。尋常に話そうではないか。なあ摂津」
「…………」
「貴さまはおれのことを、ややともすると、策士だとか、鬼謀家とか、警戒しているふうだが、黒田官兵衛は、大策はめぐらすが小策は弄さんよ。いわんや友を謀って自己のてがらにせんなどとは考えたこともない。――ただ汝のためを思い、筑前どのの苦衷を察し、また信長公を中心とし、ここはわれわれ皆、一つになって、速やかに統業を仕上げることが、天下を救う大計に相違ないと信じればこそだ。