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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

かくの如く、素裸同様、身ひとつ引っさげてここへ出向いて来もしたのだ。わからんか、筑前どのの友情が、われわれの信義が」

村重は返すことばも知らないのである。しばらく黙っていたが、やがて強いて抗弁した。

「友情だの、道義だのと、それは平和な日にだけ光のあることばではないか。いまはちがう、戦国だ、乱世だ。――謀らねば計られ、害さねば害される。箸を持つまも、斬るか斬られるかという険しい世間だ。きのうの味方もきょうは敵。敵とあれば、友であろうと、これを獄に投じるもやむを得ない。戦略だからな。まだ殺さぬだけが、慈悲といえよう」

「なるほど。それでおぬしの世のなかの観方も、戦いに対する日頃の考え方も、道義のほどもよく分った。……あわれむべき時勢の盲目、もう口を交わすのもいやになった。勝手に溺れてゆけ、亡んでしまえ」

「なに、盲目だと」

「そうだ! ……。いや、こうなっても、なお貴さまに対して、おれは微量ながら友情の温みを胸から捨てきれん。さいごに、もう一言教えてやる」

「何か、織田家のほうに、秘密な策略でもあるか」

「そんな利害の問題ではない。――おぬしは惜しい男かな。隠れもない武勇を天下に知られながら、この戦国によく生きる術を知らん。