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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

」

とわずかに言う。

「暗い中でも、姉さんに見えませんか、姉さんにしてくれませんか。自惚れてて? ちょいと自惚れだ、と思いますか。清葉さんでなくっては――不可いの、不可いの。」

「真暗だ。私は、真暗だ。……」

「まだ、まだまだあんな事を。清葉さんでなくっちゃ、不可いの、不可いかい。」

「顔が見たい、お孝さん。」

「贅沢だよう。」

と婀娜な声、暗中に留南奇がはっと立つ。衣摺の音するすると、しばらくして、隔ての襖に密と手を掛けた、ひらめく稲妻、輝く白金、きらりと指環の小蛇を射る。

「ほんとうの、貴方の姉さんは私は知らない。清葉さんなら恐れはしない。芸でいけなきゃ、容色で、……容色でいけなけりゃ芸事で、皆不可なけりゃ、気で負けないわ。生命で勝つ。葛木さん、見て頂戴。」

とすらりと開ける、と翠の草に花の影を敷いて、霞に鴛鴦の翼が漾う。

「ああ、お千世は?」

と葛木が言った。それは影も見えなんだ。

「枕を持って、下階の女房の中へ寝に行きました、……一度でも芸者と遊んで、そのくらいな事が分らない。――さあ、ちゃんとして見て頂戴、サの字が見えない? 姉さんに肖ない?……ええ、焦ったい。