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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

かつて、その岐阜県の僻土、辺鄙に居た頃じゃったね。三国峠を越す時です。只今、狼に食われたという女の検察をしたがね、……薄暮です。日帰りに山家から麓の里へ通う機織の女工が七人づれ、可えですか。……峠をもう一息で越そうという時、下駄の端緒が切れて、一足後れた女が一人キャッと云う。先へ立った連の六人が、ひょいと見ると、手にも足にも十四五疋の、狼で蔽被さった。――身体はまるで蜂の巣ですわ。

私は反対の方から上りかかったんでね。峠から駆下りて来た郵便脚夫が一人、(旦那、女が狼に食われております。)と云い棄てて、すたすた行きおる。――あとで、その顔を覚えとったで、(なぜ通りかかって助けんかい。)……叱った処で、在郷軍人でもなし仕方が無い。そういう事も現在見た。

また、山の中に、山猫と云うのが居る、形はかつて見せん。見たものは無いと云うです。ただ深更に及んでその啼声じゃね、これを聞くと百獣悉く声を潜むる。鳥が塒で騒ぐ。昔の※々じゃと云う。非常に淫猥な獣じゃそうでね、下宿した百姓の娘などは、その声を聞くと震えるですわい、――現在私も、それは知っとる。

炭焼の奴が、女を焼いて食った事件もある。