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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

そこまで戻ると、我家の格子戸前の木戸を細めに開けて、差覗く島田を見た。

「千世ちゃんかい。」

お孝は、ずっと来て、年上の女の落着いた声を沈めて、

「どうおしなの、お前さんもう寝ていたんじゃないのかい。」

「ええ、寝ていたんですけれど、私、国手がお帰んなさるのを、姉さんが送って出て、この木戸で、何だか話していらっしゃるのが寂しく聞えて、知っていたんですよ。カタカタと足音がして出ておいでなさいますから、あの、じゃ露地口までお送りなすったんだ、そう思っていましたけれど、それにしてはあんまり遅いんですもの。

いつまでも、お帰んなさいませんし、それだし、あの、一度お寝ったんですから、姉さんは寝衣でしょうのに、どうなすったしら。……私、心配で……ここまで起きて来て、あの、通へ出て見ようと思ったんですけれど、可恐いでしょう。……それですから、あの、ここにつかまって震えていましたの。」

「何だねえ、そんな弱虫が、それじゃ、来てくれたって何にもなりゃしないじゃないか。」

と口では笑いながら、嬉しい目で。その癖もの案じの眉が顰む。……軒の柳に靄の有る、瓦斯ほの暗き五月闇。