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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
」
「私は芸者だと思っているがね。」
「何でも可い。」
とドス声で忙込みながら、
「すっぱり切れてくれ、頼むだでな。」
「女に言え、女に、……先方で切れればそれ迄よ。人に掛合われて、自分の情婦を、退くも引くもあるものか。」
「……自分の情婦。……ええ堪らん、俺の前でお孝の事を。……うう、筋が引釣る、身体が震える。
生命とも、女房とも思う女を引奪られた恋の敵に、俺の口から切れてくれ頼むと云うは、これ、よくよくの事だ思わんですだか。
女に云うて肯く程なら、遠くから影を見ても、上衣の熊の毛まですくすく立つお前んに、誰、誰が頼む、考えんかい。」
「私も同じことを言いたいな。女が肯かないほどのものを、男が掛合われて引退る奴がありそうな事だと思うのかい。」
「俺を人間だと思うか、国手。」
赤熊はすっくと立った。
「悪魔だ、鬼だ、狂人だ、虎だ、狼だ。……為にならんぞ!」
「ああ、その上にまた熊でも可いよ。」
「汝!」
葛木は欄干に杖を倒して、柔に手を払いた。
「刃物を持ってるか。」
「むむ、持たんことがあるもんだか。」
「二口あるか、二挺持ってるか。」
「どうするだい。」
「一口渡せ、一挺貸せ。