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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

「ああ、それで飴を買いに。」

と云いかけて、清葉は何か思出した面色して、

「お千世さん、今の、あの、味方をして下すった坊さんね、……」

「ええ。」

「お前さん誰かに肖ていたとは思わなくって、」

「肖ていて。誰に、ええ?……姉さん。」

「ちょっとあの……それだと、お前さんも、お孝さんも、私も知っている方なんだがね。」

「そうでしょう、ですから、私もきっとそうでしょうと思いましたわ。」

「まあ、やっぱり、そうかねえ。気の迷いじゃなかったかねえ。」

と清葉は半ば独言に云うと、色傘を上へ取って身繕いをする状して、も一度あとを見送りそうな気構えに、さらさらと二返、褄を返して、火の番の羽目を出たが、入交って、前へ通そうとするお千世と、向を変えてまた立留まった。時も過ぎたり、いかにしても、今はその影も見えないことを心付いたらしいのである。

「では、あの、姉さんはお顔を見たことがあるんですか。」

「私は、ここで遠いもの。顔なんてどうして?……お前さんは見たんじゃない? もっとも笠を被っていなすったけれどもさ。」

お千世はしきりに瞬した。

「あら、姉さん、肖ていたって、西河岸のお地蔵様じゃないんですか。