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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
「ううう、うう!……抉れ、抉れ、抉れ。」
懐中をころがる小児より前に、小僧はべたべたと土間を這う。
「了った。」
手を圧えたのは旅僧である。葛木は、人に揉まれて、脱け落ちた笠のかわりに、法衣の片袖頭巾めいて面を包んだ。
「お孝さん。」
「先生。」
と、忘れたように柄を離すと、刀は落ちて、赤熊は真仰向けに、腹を露骨に、のっと反る。
お孝の彼を抉った手は、ここにただ天地一つ、白き蛇のごとく美しく、葛木の腕に絡って、潸々と泣く。
葛木はなお縋る袖をお孝に預けたまま、跪いて悶絶した小児を抱いた。
駆着けた警官の中に笠原信八郎氏が有った。
「葛木……更めてお目にかかります。……見苦しくなく支度をさせます。この女の内までお見免しが願いたい。」
「諸君。」
信八郎氏は言下に云った。
「私が責を負います。」
警官は二隊に分れた。
お孝は法衣の葛木に手を曳かれて、静々と火事場を通った。裂けた袂も、さながら振袖を着たごとくであった。
火の番の曲り角で、坊やに憧れて来た清葉に逢った。
「ああ、お地蔵様。」
夢かとばかり、旅僧の手から、坊やを抱取った清葉は、一度、継母とともに立退いて出直したので、凜々しく腰帯で端折っていた。