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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
「菊家へ行こうよ、私がお客で。大したお大尽だわね、お小遣を持扱って。」
とわざと銀貨入を帯に納めて、
「途中で我ままな馴染に逢って無理に連れられたとそうお云いな。目と鼻の前だって、一旦家へ帰ってからだと、河岸の鮨は立食しても、座敷にはきちょうめんな、極りの堅いお孝さん。お化粧だの、着換だので、ついそのままではお出しであるまい。……私も五時からお約束が一つある。早いが可いわね。ちょっとこの自働電話で、内へ電話をお掛けなさい。一所に行って御飯を食べよう。」
「姉さん。」
と、いそいそしながら、果敢なそうに、
「もうね、内に電話は無いんですよ。」
清葉は思いがけず疑いの目をって、
「どうして、ねえ。」
「お孝姉さんはあんなでしょう。私は滅多に御座敷はありませんし、あの……」
とお千世は言淀んだが、
「鑑札のお代だって余計なものだのに、電話なんか無駄だからって、それで、譲ってしまったんでしょう。一昨日から、内にはボンボン時計も無いんでしょう。ですから、チンリンと云う音もしないで、寂寞ぽかんとしているんですわ。
方々、お茶屋さんだの、待合さんへ、そう云っておいでって云うんでしょう。