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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
」
――露地の駒下駄――は、この婦で、怯えた声はその妓であった。
「緩り歩行いても追着いて来ないから、内へ帰ったろうと思ったのに。」
「だって、姉さんが威すんですもの。私吃驚して遁出しましたけれど、(お竹蔵。)の前でしょう、一人じゃ露地へ入れませんもの、可恐くって、私……」
「煙草屋の小母さんに見てお貰いなら可いものを。」
「もう閉りましたの。」
と、小腰を屈めて、欄干の上で、ふっくりした鬢を庇った透して見る手、――橋の側は……変っていた。
「……覗いたけれども、真暗で、もう寝たんですもの。」
「それで何かい、また出掛けて来たのかい。」
「ええ、一人じゃ可恐いんですもの、……でもこっちがまだしもですわ。」
「なんて、お前、お約束だもんだから、帰りに縁日へ廻って、何か買わせようと思ってさ。さあ、行こうよ……ねえ、貴方一所に――千世ちゃん御挨拶をおしでないか。」
「――失礼。……お初に、」
「お初じゃないよ。……貴方、この妓は御存じだわね。」
「両三度――千世ちゃんだっけ。」
「あら、済みません、……誰方。」
と縋り寄るように、外套の襟を覗いて、
「まあ、清葉姉さんに岡惚れの、」