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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

……今日あたり土曜から日曜で私が来そうだと思う日は、煮て置くんだとお世辞を言った。が、ああ、十ウに九ツこれも見納めになろうも知れん、と云うのは(サの字。)の謎の事。……一度口へ出して、ピシリと遣られる、二度とは面は向けられまい、お鹿も今夜ぎりと思うと何となく胸が迫って卓子台の上が暗かった……」

お孝はポンと楊枝をくべた、すうッと帯を揺って焦れったそうに、

「ちょいと、まあ、待って頂戴よ。お粥腹のお姫様を饂飩で口説いて、八頭を見て泣いたって、まるでお精霊様の濡場のようだね。よく、それでも生命があって帰って来たよ。しっかりして下さいよ、後生だから、お前さん、私が附いてるから。」

で、するり卓子台の縁を辷って、葛木の膝に手を掛ける。

「ああ、痛い。」

そのまま、背中をトンと凭たして、瞳を返すと、お千世を見て、

「どうした、お爺さんは遅いじゃないか。」

「あら、姉さん、来るもんですか。」

「私は来るつもりで待っていたのに――そこの襖を開けて御覧よ、居るかも知れない。」

「まあ、」と可愛く、目をぱちぱち。

「可いからちょいと御覧。」

と言う、香の煙に巻かれたように、跪いて細目に開けると、翠帳紅閨に、枕が三つ。