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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

こっちは悔悟して、坊主にでもなろうと云うんだ。……いずれ精進には縁があります。自棄だから序に言うが、……私は、はじめて逢った時、二十三の年、……高等学校を出ると、祝だと云って連出して、村田屋で御飯を驕ったものがある。酒は飲めず、畏って煙草ばかり吐かしていたので、愛想に一本、ちょっと吸って、帰りがけにくれたのが、」

「承知々々。」とまた笑う。

「でね、口紅がついていたんだ。」

「気障だ。」とお孝は手酌である。

「坊主には縁があるって事だよ。」

軽く清いで盃をさしながら、

「処をまた還俗さしてあげるから、もとッこだわね。可哀相に……そのかわり小鰭の鮨を売りやしないか。」

と倦怠そうに居直って、

「もし、その吸口はどう遊ばしたえ?……後学の為に承り置きたい……ものでござるな。……よ。ほんとうに、」

「路傍では踏つけよう、溝も気になる……一石橋から流したよ。」

「ああ、祟りますねえ。そんな男を、私も因果だ。」

「恐入ります、が聞いて下さい。」

「聞いて遣わす、お酌をおし……御免なさいよ。」といよいよ酔う。

「そうだ――ああお銚子が冷めました、とこう、清葉が、片手で持って、褄の深い、すんなりとした膝を斜っかいに火鉢に寄せて、暖めるのに炭火に翳す、と節の長い紅宝王を嵌めたその美しい白い手が一つ。