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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

これが僕の知っている全部です。綾子姉さんが僕に麻酔剤を嗅がせるなんて考えられないことです。第一、姉さんはそんな薬を持っているはずもないのですからね」

一郎は語り終って、グッタリと長椅子に身を沈めた。

「フーン、そうでしたか。すると、犯人はあなたが邪魔をしないように、麻酔させておいて、それから塔にのぼって信号をはじめたわけですね。その信号に応じて、荒川という青年が塔の下まで忍んでくる。それを犯人が何かの理由で射殺したという順序ですね。しかし、それにしても、どうもわからないところがある。あなたもおっしゃるように、お嬢さんが、あなたを麻酔させたり、荒川を撃ったりなさるというのは、まったく想像できないことですからね」

三島刑事が眉に皺をよせて、小首をかしげながら考え深い調子で言う。

「そうです。わたしも綾子がそんなまねをするとは、どうにも考えられない。明智さんは、綾子が塔にのぼって信号しているのを見たというのだが、何かそこに間違いがあるのじゃないかと思うのです。

その時も、綾子を呼んで、明智さんの前で、充分問いただしたのですが、綾子はまったく覚えがないというのです。