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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
「えっ、ご主人がいないのか」
フラフラと立ち上がって、部屋の中へはいってみたが、伊志田氏の姿はどこにも見えなかった。
騒ぎを聞きつけて、ほかの書生や刑事なども集まってきた。一同で手分けをして、書斎その他の主人のいそうな部屋部屋、手洗所から湯殿まで探しまわったが、伊志田氏はまるで神隠しにされたように、どこにも姿を見せないのであった。
ところが、この椿事を一郎に知らせようと、その部屋の前へ行った書生が、そこの見張り番もグッタリと眠り込んでいるのを発見したので、騒ぎは一そう大袈裟になった。
一郎の部屋にはいってみると、そのベッドも空っぽであることがわかった。主人ばかりでなく一郎青年まで、神隠しにされてしまったのだ。
残る家族といっては、七十八歳の祖母ただ一人、あの人もやられているのではないかと、急いでその部屋へ行ってみたが、ここの見張り番はちゃんと起きていて、老人は無事であることがわかった。
隠しておこうと思ったのだけれど、この騒ぎを隠しおおせるものでなく、老人は間もなく二人の神隠しを気づいてしまった。そして、半ば狂せるがごとき彼女は、泣き悲しむかわりに、一そう、神ががりのようになって、銀髪を逆立て、眼を血走らせながら、例の仏間に駈け込んで、わけのわからぬ経文を高々と読誦しはじめるのであった。