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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

第一、出入口すらもわからないのである。怪物は人間界の法則を無視した妖術を心得ていたのであろうか。

その黒覆面の怪物とは何者であったか。その正体は二十歳を越したばかりの美しい娘ではなかったか。人々はそれに思い当たると、慄然として肌の寒くなるのを感じないではいられなかった。

彼女は父親と弟とを盗み去ったのだ。なんの目的で? いうまでもない、これまでの例でもわかるように、その生命を奪うためである。ああ、かくのごときことが、果たして人間界に起こり得るのであろうか。もしかしたら、これは現実の出来事ではなくて、伊志田屋敷の異様な建物の妖気が、人々を一場の悪夢に誘いこんでいるのではあるまいか。

だが、これらの取調べには、主として警視庁から出張していた刑事たちが当たったので、書生たちはまだ未練らしく庭のあちこち、木の茂みなどを覗き歩いていたのだが、そうして歩きまわっているうちに、書生の一人が、ふと妙な顔をして立ち止まった。

「おい、どうしたんだ」

「シーッ、静かにしたまえ……君、あれが聞こえないか。ほら、なんだか人の声のようじゃないか」

言われて聞き耳を立てると、いかにも遠くから人の叫び声のようなものが聞こえていた。