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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

「誰かきてくれって言ってるようだね。救いを求めているのだ。だが、いったいどこだろう。ひどく遠いようだが、塀のそとじゃないだろうか」

「いや、塀のそとじゃない。どこかこの辺だ。地の底から聞こえてくるような気がする」

「えっ、地の底だって?」

二人はそんなことを言いながら、少しずつ声のする方へ近づいて行った。

「あっ、そうだ。あれかもしれない。君、きたまえ」

一人が何を考えたのか、やにわに走りだした。わからぬながらついて走って行くと、林のようになった立木のあいだにはいって、一面の雑草と灌木の茂みの中に立ち止まった。

そこに一つの古井戸が口をひらいていた。四角に石を畳んだ井戸がわに一面に青苔が生えている。書生はいきなりその石に手をついて、井戸の中を覗きこんだ。

「誰だ。君は誰だ」

すると深い底から、陰にこもった声がのぼってきた。

「僕だよ。一郎だよ。早く助けてくれたまえ」

底は暗くて、人の姿もよくは見えぬが、その声は一郎青年に違いなかった。

「アッ、一郎さんだ。待ってください。いま縄を持ってきますからね。しっかりしていらっしゃい」

どなっておいて駈け出して行ったが、やがて、ほかの書生たちといっしょに、長い麻縄を用意して戻ってきた。