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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

僕も最初は殺人の瓦斯を送る仕掛けではないかと疑いましたが、調べてみると、この鉛管の向こうの端は瓦斯管につながっているのではなくて、この家の庭にある撤水車の水道管につながっていることがわかりました。その水道管は真夏のほかは使用しないもので、雑草に蔽われて、ちょっと誰も気のつかないような場所にあるのです」

「フーン、すると水責めにしようと考えたのですか」

「そうです。瓦斯よりも一そう残酷な方法です。この穴蔵に流れこむ水が、一寸ずつ一寸ずつ水面を高くしてくるのです。足から腰、腹から胸へと、徐々に水が増して、刻々に死期の近づくのを、眼の前に眺めながら、どうすることもできないのです。何が恐ろしいといって、刻一刻、時計のように正確に、まったく逃がれるすべのない死が近づいてくるのを、じっと見ていなければならないほど恐ろしいことが、この世にあるでしょうか。犯人はこの二人に、その恐怖を味わわせようとしたのです。

いや、そればかりではありません。犯人はもっと恐ろしいことを考えていたのです。北森さん、あなたはそれに気がつきましたか。綾子さんの縛られていた位置は、床に足が着くほど低いのに比べて、伊志田さんの縛られていたのは、それより二尺も高い位置です。