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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

踏み込んで、控えの間と奥との境のカーテンを引きあけた。

「おや、どなたですね」

とがめるようなしわがれ声が聞こえてきた。

よく見ると、そこは畳敷きの日本間になっていて、向こうの窓寄りに蒲団が敷いてあった。その蒲団の中にモグモグと動いているものがある。皺くちゃのお婆さんであった。

「あ、失礼しました。今ここへ、誰か逃げ込んできませんでしたか。黒い覆面をして、インバネスを着たやつです」

明智がドギマギして訊ねると、老人は寝間着姿で床の上に起き上がって、あきれたようにこちらを見つめた。

「いいえ、誰もはいってきませんが、あなた、いったいどなたですね」

それは一郎の祖母であった。老年のこととて、昼間も蒲団の中にはいって、うたた寝をしていたのであろう。

明智は名を名乗って、簡単に挨拶すると、スイッチのありかを訊ねて、天井の電燈をつけた。だが、パッと明かるくなった部屋の中には、別段怪しむべき点もなかった。そこには二た棹の箪笥と小机と鏡台が置いてあるばかり、人の隠れる場所とてもない。老人の許しを受けて、座敷に上がり、押入れをひらいてみたが、そこにも別状はなかった。

部屋の窓のそとには、庭園が見えていたが、そのガラス戸もぴったり閉めてあった。