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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
美しい右の眼は内障眼のように視力を失ってしまった。
一瞬にして眼球が溶けくずれ、眼窩の漿液が流れ出すように、その焼け穴は眼の下から頬にかけて、無気味にひろがって行き、愛らしいえくぼをも蔽いつくしてしまった。美青年の半面はいまわしい病のためにくずれるように、眼も眉も口も一つに流れゆがんで行った。
「兄さま、いけないわ。早く!」
少女の甲高い声と、ほとんど同時に、カチッとスイッチを切る音がして、たちまちスクリーンが闇に蔽われ、醜い歪んだ顔の大写しは、幻のように消え去った。やっと技師が映写機の電燈を消したのである。
「電燈をつけましょうか」
これは、闇の中からの中年の婦人の声であった。
「なあに、大丈夫です。すぐ映りますよ」
そして、何かしばらく映写機をいじくっていたが、間もなくカタカタという歯車の音が起こって、スクリーンに次の場面が映りはじめた。
一分ほどは何事もなく、家族らしい人たちの動作が次々と映し出されたが、やがて、又大写しの場面がきた。今度は美青年とほとんど同年輩に見える美しいお嬢さんの顔であった。美青年の美しさを凄艶と言い得るならば、このお嬢さんの美しさは華麗であった。