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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

桃色の牡丹の花が今咲きそめたようにあでやかであった。

だが、なんという不思議な偶然であろう。画面の大写しとなるや否や、又しても映写機の回転がピッタリと止まった。そして、人々がギョッとしたようにスクリーンを見つめているうちに、そのお嬢さんの牡丹のように美しい顔の唇の辺に、ポツリと黒点が現われたかと思うと、まるで夕立雲がひろがりでもするように、ジワジワと、しかも非常な速さで、恐ろしい焼け焦げの痕が唇全体を蔽い消していった。

唇のなくなったお嬢さんの巨大な顔が、眼と頬だけで笑っていた。あでやかに笑っていた。だが、それがあでやかであればあるほど、溶けて流れた唇のあとが物凄く恐ろしかった。しかもその溶解は唇だけにとどまらず、ちょうど口からおびただしい液体が流れ出す感じで、みるみる下顎全体を蔽い尽し、たちまち美しい笑顔の下半分を身震いするような化物の形相に変えてしまった。

一間四方の巨大な顔が、しかもそれを見物している人自身の顔が、ハッとする間に、なんともえたいの知れぬ怪物に変って行く恐ろしさ。フィルム面上の焼け焦げは、二ミリか三ミリなのだ。それがかすかな焔を発して燃えるのだ。