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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
さてはこの人があれを見ていたのかと、とっさに察して、彼がただの医師でないことを疑った様子である。だが、彼女は別にうろたえることもなく、ごく自然な驚きの表情を示して、ぬけぬけと嘘をついた。
「えっ、塔の中へ? まあ、いやですわ、お父さま。あたしあんな気味のわるい所、昼間だって、はいってみたことさえありませんわ。どうしてそんなことをお聞きになるの?」
実に名優である。それに、この娘は父に対して、なんだか妙によそよそしい口のききかたをするではないか。
「綾子、嘘ではないだろうね。まさかお父さんに、この方の前で恥をかかせるのではあるまいね。お前は知るまいけれど、この有本先生は、実は素人探偵の明智小五郎さんなのだ。わしと一郎とでお願いして、うちの警戒に当たっていただいているのだ」
それを聞くと、綾子の美しい眼が、何かギョッとしたように、すばやく明智を盗み見た。ヘリオトロープの匂いが、一そう強く明智の鼻孔を刺戟した。
「綾子、この明智さんが、お前が塔で妙なことをしているのを、ごらんになったのだよ。わしは、明智さんの前で、お前の弁明を聞かなければならない。こういう際だから、つまらないまねをすると、どんな疑いを受けるかしれないのだよ。