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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

逃げ出すやつがあれば、私の眼にはいらぬはずはなかったのです」

「ドアは閉まっていたのかい」

「そうです。ちゃんと閉まったままでした。私がここへはいるまで誰もひらいたものはないのです」

黒覆面の怪物はカーテンのうしろに姿を隠す癖があった。だが、この鞠子の部屋には、そんな大きなカーテンはなかった。机の下や箪笥のうしろなども調べてみたが、どこにも怪しいところはなかった。

一郎はさらに、天井を見廻したり、ジュウタンをめくって床板を調べたりしたが、秘密の出入口があるようにも見えなかった。

伊志田氏もおくればせにはいってきて、鞠子の死骸を抱き上げていた。さすがの伊志田氏も、矢つぎ早におそいかかる不幸に、すっかりうちのめされているように見えた。

「やっぱり、あいつは幽霊です。どこにも出入りした跡がないのです。窓のそとからピストルを撃ったとすれば、ガラスが割れていなければなりませんし、ほかに弾丸のはいってくるような隙間はありません。これでも、あいつは骨と肉を持った人間なのでしょうか」

一郎は現実家の父を反駁するように言って、伊志田氏の青ざめた顔を見つめるのであった。

「一郎さん、ちょっと、ちょっとあれを……」