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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

ああ、それではあの覆面の怪物は最初から綾子だったのであろうか。男か女か老人か若者か、まったく見当のつかぬ声、身のたけを隠したダブダブのインバネス、あのインバネスの中には、思いもよらぬかよわい女性の肉体が包まれていたのであろうか。

この考えは、その人の弟である一郎はもとより、事に慣れた明智小五郎をさえ、慄然としてわが理性を疑わせるようなものであった。ああ、いかにしてかくのごときことが可能なのであろう。あの牡丹のように美しい二十歳を越したばかりの娘が、人を殺し得るのであろうか。しかもその被害者は、みな彼女の家族なのだ。弟を傷つけ、母を殺し、妹を殺す。そこにいかなる動機を想像し得るのであろうか。

「僕は信じられません、百の証拠があっても、あの人にそんな恐ろしいまねができるとは考えられません」

一郎は唇をワナワナと震わせながら、自分自身の心を説き伏せようとするかのように、強く言いはなった。

「一つ最初から考えてみよう。君はあいつの襲撃を受けてとっ組み合ったことがあるんだね。その時の手ざわりが思い出せないかね。いくら興奮していても、男の骨組と女のからだとの区別ぐらいはつくと思うが」