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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

そして、その木箱を踏み台にして、高い煉瓦塀に飛びつき、モガモガと足を動かしていたかと思うと、とうとう塀の頂上に登りついてしまった。

「さては、あいつ、塀を越して邸内へ忍び込むつもりだな」

小林少年は胸をドキドキさせて、その様子を見つめていたが、やがて、青年の姿が塀の中へ消えてしまうと、さて、どうしたものかとためらった。表門に廻って邸内の人にこの事を知らせるのも一策だ。また、そのまま青年の跡を追って塀の中へ忍び込み、彼が何をするかを見届けるのも一策だ。

やがて、小林少年は後の方の策をえらぶことにきめた。明智探偵の日頃の教訓に、怪しい人物が現われたら、急いで騒ぎ立てないで、そいつが何をするかをよく観察するがいい、という一か条があったのを思い出したからである。

そこで、少年はやはり同じ木箱を踏み台にして、塀に飛びつき、器械体操の仕ぐさでなんなく頂上に登った。頂上に腹這いになって、庭を見おろすと、十間ほど向こうの木の下を、あの青年が背を丸めて忍んで行くのが見えた。

小林は塀の内側へぶら下がって、音を立てないように注意しながら、邸内に降り立った。そして、やはり木蔭を伝いながら、五、六間の隔たりをおいて、怪青年のあとを追った。