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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

一郎と綾子とが外出するのを見かけたものはないか、二人の寝室に何か怪しい物音でもしなかったかということを、雇い人たちの一人一人に当たって、入念に質問したが、誰もはっきりした答えのできるものはなかった。

二人の寝室には別に取り乱した跡もないし、玄関のドアはちゃんと内側からしまりがしてあった。しいて想像すれば、二人は窓から庭に出て、煉瓦塀をのり越して外出したとでも考えるほかはないのだが、一郎にしても綾子にしても、そんなばかなまねをするはずがなかった。

一方、怪青年の身元については、小林少年の証言によって、北森課長の部下の二人の刑事が、深夜ながら、伊志田邸裏の空地に面した小住宅を訪ねまわった結果、案外たやすく、彼の自宅をつき止めることができた。

彼は付近の印刷工場の会計係を勤めている荒川庄太郎という二十五歳の青年で、年取った父母と三人でみすぼらしい長屋住いをしていた。五十歳にあまる父親は同じ工場の職工であった。

父も母も伜の奇怪な行為については、まったく何も知らぬ様子であった。庄太郎は不良青年というほどではなかったが、どこか風変りなところがあって、時々勤め先を休んでフラッとどこかへ遊びに行くことがあり、また夜遅く外出することも珍しくなかったという。