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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页
それで侯はなんと云われた、と六郎兵衛が訊いた。殿さまは信用できないと仰しゃいました。どうしてだ。甲斐は肚の底の知れない男だ、涌谷や松山と不仲になったのも、妻の離別も、一ノ関のすすめで国老に就任したのも、みなこちらを信じさせる手段かもしれない、あいつはくせものだ、と仰しゃいました。ふん、と六郎兵衛は下唇を噛んだ。すると、二人がそんなに問題にするほど、原田甲斐という男は切れる人物なのだな。さあどうかしら、御家中の方たちみんなに好かれているし、御婦人たちは特にごひいきが多いそうだけれど、あたしはよく知りませんし、なにしろ四十幾歳まで評定役しか勤めないくらいの人ですから、とおみやは云った。
「原田のことはそれだけか」
「殿さまは、近いうちにいちど会おう、伴れて来てくれと仰しゃってましたわ」
「よし、次を聞こう」
「次はなんだったかしら」
「伊東なにがしのことだ」
「ああそうだわ」とおみやは云った、「伊東新左衛門という人も、こんど御家老になるんだけれど、それについて、兵部さま右京さまの両後見から、三カ条の御誓紙をお取りなすったのですって」
「それがどうした」
「その三カ条がたいそう困るもので、さきに田村右京さまが承諾なすったものだから、兵部さまもやむなく誓紙を書いたけれど、あとでなにかあったばあいにはひじょうに困る、と仰しゃってましたわ