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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页
「助けて下さい」とおみやは叫んだ。
あらわになった膝を隠し、根のくずれた髪へ手をやりながら「どうぞ助けて下さい」と声かぎり叫んだ。若い侍はそばへ来た。
「どうしたのです」と訊きながら、彼は堤の上を見た。
石川は堤の上からこっちを見ていた。どうしたものか迷っているらしい。若い侍はおみやを見て、いったいどうしたのか、と訊いた。おみやは立ちあがって、肩で息をしながら、ふと眼をみはって「まあ」といった。
「あなたは黒田さんじゃありませんか」
「ええ、黒田ですが」
「お勘定部屋の黒田玄四郎さんでしょ」
若い侍はけげんそうに「貴女は」と訊き返した。
「ああよかった」
おみやは彼の問いには答えずに、堤の上の石川を見やった。そして、観念したらしい兵庫介が、編笠をかぶりながら去ってゆくのを認め、いまの男に掠われるところでしたの、と媚びた眼で相手を見た。
「掠われるとは」
「いきなりとびかかって、駕籠で掠ってゆこうとしたんです、でもよかったわ、あなたが来て下すったので、あぶないところを助かりました」
「貴女は私をどこで知っていたんです」
「そうね、御存じないのがあたりまえですわね」とおみやは嬌めかしいしぐさで、裾前や衣紋を直しながら、斜交いに男を見た、「あたしあなたと同じ屋敷にいますの」