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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页
「それで」
「私がうかがいたいのはその点です」
甲斐は右の手をあげ、拇指の爪で中指の爪を静かにこすった。七十郎は、その世評は貴方が自から作ったものだと思った、とつづけた。
「私ばかりではない、松山もそう信じていた、私の確信が崩れかけたとき、松山は貴方と盟約のあることをうちあけ、どこまでも信じているべきだと云われた、信じているべきだ、とですよ」と七十郎は云った、「原田さん、貴方の本心を聞かせて下さい、貴方は茂庭さんとの盟約を守っているんですか、それとも一ノ関の与党になったんですか」
甲斐はこすっている手指を見ながら、そのどちらでもない、と答えた。
「どっちでもないんですって」
「そう、私は私であるだけだ」
「不偏不党ということですか」
「私は私だというのだ」
「松山との盟約はどうなるんです」
「盟約とはどんなことだ」
「貴方はまじめでしょうね」七十郎は汁椀の蓋を置いた、「では云います、酒井雅楽頭と一ノ関とで、伊達家六十二万石を寸断しようとする陰謀がある、そのため家中に紛争を起こさせ、ちかごろでは幼君毒害のことさえ計られている、この大事を防ぐために、茂庭さんは外から、貴方は一ノ関のふところにはいり、内外協力して藩家を守ろう、これがお二人の盟約だった筈です」