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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

「それはお人払いのうえで申上げましょう」

甲斐は、じっとその男を見た。男は腰から刀と脇差を脱し、それを丹三郎のほうへさしだした。丹三郎は甲斐を見た。そして、甲斐が頷くと、その両刀を受取りながら、するどく相手のようすを見た。

――どこかで会ったことがあるぞ。

と丹三郎は思った。

「頭巾をぬいで下さい」と丹三郎が云った。

男は首を振った。甲斐は、そのままでよしと云い、おくみに「裏座敷へ」と囁いた。おくみは立って、廊下づたいに、その男を案内していった。――丹三郎は男の姿を見送っていたが、ふと眼をみはり、両刀を次の間に置いて来ると、甲斐の脇へ戻って坐った。

「私あの男を知っております」と丹三郎が云った。

「うたえ」と甲斐は芸者たちに云った。

鳴物と唄が始まると、甲斐が丹三郎を見た。丹三郎はすり寄って、低い声で云った。

「いつぞや良源院から、宮本新八が畑姉弟を誘拐しようと致しました」

甲斐は頷いた。

「私は愛宕下で追いついて奪い返したのですが、そのとき姉弟の駕籠についていたのがあの男です」

甲斐は暫く黙っていて、やがて「たしかにか」と念を押すように云った。

「間違いありません」